「カササギ殺人事件」は、アンソニー・ホロウィッツの大ヒットミステリー小説です。ドラマ化され、日本をはじめ世界中で配信されています。
圧倒的な大絶賛のレビューの中に、「面白くない!」という絶望的辛口レビューもある「カササギ殺人事件」。
本記事では、「カササギ殺人事件」が面白くないとされる理由を徹底解説していきます。また、アナグラムのネタバレもご紹介しますので、ぜひチェックしてみてください。
カササギ殺人事件|【面白くない!】理由
「カササギ殺人事件」は、数々の賞を受賞するほどの大ヒットミステリーです。
なぜ、「面白くない!」というレビュー評価があるのか。
ここでは、面白くないと評価される理由について考察していきます。
面白くない理由1 二重構造に疲弊
ネット上で多く聞かれた感想が、「作中作」スタイルが冗長で疲弊したというものです。
カササギ殺人事件は、2つのミステリーで構成されています。
1つめは、ミステリー作家アラン・コンウェイが執筆したアティカス・ピュントシリーズの最新話のストーリー。1950年代のイギリスの田舎が舞台の殺人事件を、名探偵アティカス・ピュントが解決していきます。
そして、2つめのミステリーは、アラン・コンウェイの死を契機に編集者スーザン・ラインランドが謎解きをしていくストーリーです。
特に小説は、上巻がアティカス・ピュント、下巻で現実社会に引き戻されるという仕掛けでした。
答えにたどり着くまで放置させられる状態があまりに冗長で、疲れ果てた人が一定数いたようです。
アンソニー・ホロウィッツは2017年のインタビューで、
殺人ミステリーというジャンル全体についての、いわば論文のような作品にしたかったんです。
と語っています。どうやって作品が作られていくのかを見せたかったそうです。
面白くない理由2 現代の事件が凡庸
作中作という二重構造に凝ったためか、現代の事件の方の犯行動機やトリックに魅力を感じなかったという評価がありました。
辛口評価ですが、「アラン・コンウェイが書いた「カササギ殺人事件」だけで十分だった」という声もありました。
本来なら2つの全く違うミステリーを書き上げるエネルギーを使って、1つの「カササギ殺人事件」を書いているのです。一方の事件のほうが凡庸になってしまったのは仕方ないかもしれません。
アンソニー・ホロウィッツは2017年のインタビューで、
殺人ミステリーというジャンル全体についての、いわば論文のような作品にしたかったんです。
と語っています。
どういうことかというと、ミステリー作家のアラン・コンウェイというキャラクターを通して、どうやって作品が作られていくのかを見せたかったようです。
そう考えると、現代の事件のほうはミステリーに重点を置いておらず、作家が作品をつくる過程や思い、周りの人たちの思惑といったストーリーにメッセージ性があったのかもしれません。
実際、現代の事件のほうのフーダニットは簡単で、多くの人が、早いうちから犯人の目星がついていました。
面白くない理由3 キャラクターが好きになれない
作中作のキャラクターは概ね好評でした。
ですが、現代の事件のほうのキャラクターを好きになれないという声が多く聞かれました。
特に、小説家のアラン・コンウェイ。
それから探偵をするスーザン・ラインランド。
この2人を好きになれない人が続出。たしかに、魅力的には描かれていなかったですね。
アラン・コンウェイは、ただの嫌な人(笑)変なトリックしかけないで、やりたい文学をやればよかったのでは?とモヤモヤしちゃいます。
スーザンも、普通に自分のために捜査していただけで、探偵として圧倒的に個性がない。
カササギ殺人事件|ドラマは面白い!
「カササギ殺人事件」の面くない理由を解説してきました。
が、実は、面白くないという評価はすべて小説のものでした。
ドラマ「カササギ殺人事件」のほうは、高評価ばかりでした。
面白い理由1 二重構造を行き来
ドラマでは、スーザンが原稿を読みはじめ、同時にアティカス・ピュントのストーリーも始まります。そして、現代のスーザンと1950年代のアティカスがそれぞれに捜査をすすめていくのが、テンポよくシンクロしていくのです。
面白い理由2 ホロヴィッツ脚本
ドラマの脚本は、原作者のアンソニー・ホロヴィッツが書いています。
なので、原作の冗長さを、ドラマではうまく克服できています。非常にテンポのいいドラマに仕上がっています。
嫌われ者アラン・コンウェイも、自分の利益のために犯罪を犯す出版社のチャールズも、ホロヴィッツ自身の経験を投影していると思えば、自虐的な意図さえ見えてきます。
アティカスとスーザンという2人の探偵が、会話をしながら謎解きをしていくのも、このドラマの醍醐味です。
面白い理由3 1人2役キャスト
現代と1950年代のストーリーのどちらにも出ているキャストが複数います。
この1人2役が遊びの要素として、ドラマに彩りを与えています。
- マシュー・ビアード
マシュー・ビアードは、アティカス・ピュントの助手のジェームズ・フレーザーを演じています。同時に、現代のストーリーでは、アラン・コンウェイの恋人ジェームズ・テイラーを演じています。格好や髪型は時代に合わせてまったく違うものになっていますが、ドラマ視聴者はすぐに気づきます。ファーストネームも一緒ですし。
- ピッパ・ヘイウッド
ピッパ・ヘイウッドは、サー・マグナス・パイの妹クラリッサ・パイを演じています。同時に、現代のストーリーでは、アラン・コンウェイの妹クレア・ジェンキンズを演じています。どちらも、強く裕福な兄の陰に隠れた冴えない貧しい妹です。ドラマでは2人の探偵が妹を尋ねるシーンなどで、ピッパ・ヘイウッドの1人2役がうまくシンクロしています。
- チェ・オマンバラ
チェ・オマンバラは、どちらのストーリーでも牧師役を演じています。1950年代のほうではロビン・オズボーン、現代ではトム・ロブソンという役名です。この、OsborneとRobesonもアナグラムになっているんですよ!
カササギ殺人事件|アナグラムがお好き
欧米人ってアナグラム好きですよね(笑)
カササギ殺人事件でも、アナグラムがストーリーの鍵を握ります。(ネタバレあります)
アナグラム1 シリーズの頭文字
アラン・コンウェイ作のミステリー小説は全部で9話ありました。それぞれの題名の頭文字を取ると⋯
Atticus Pünd Investigates
No rest for the wicked
Atticus Pünd takes the case
Night comes calling
Atticus Pünd Christmas
Gin & Cyanide
Red rose for Atticus
Atticus Pünd Abroad
Magpie Murders
An Anagramとなります。
「アナグラムだよ!と」いうメッセージを、小説9話をつかって伝えてきていたのでした。壮大!
アナグラム2 主人公名の頭文字
そして、”Atticus Pünd”という、アラン・コンウェイが生み出した大ヒット作の主人公探偵の名前の文字を入れ替えると⋯
- Cat Up Nudist
- A Stupid Cunt
どちらも下品な言葉が出来るのです。cuntは女性器を指す俗語で、「英語でもっとも卑猥な言葉の1つ」だそうです。
アラン・コンウェイは末期ガンに侵され、書きたくない大衆ミステリー小説を必死に書いていることが無意味だと悟ります。もともと、タイトルにアナグラムを仕込むことで「正気を保っていた」というアランは、これを利用してアティカス・ピュントシリーズを終わらせようとしたのでした。手が込んでいて、いかにもミステリー小説家がやりそうなことですね。
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