静寂のウェールズに、また血の匂いが漂う――。
『警部マサイアス』、別邦題『ヒンターランド』(原題:Hinterland)シーズン2は、前シーズンの衝撃的なラストから6週間後の世界を描きます。
心を閉ざした刑事トム・マサイアスが、再びウェールズの荒涼とした大地で捜査活動に戻ってくるシーズン2は、ホラー的要素が光るエピソードも加え、ウェールズという土地そのものの“暗い詩”を描く心理ミステリーとなっています。
シーズン1同様に、セリフは少なく、沈黙の中に張り詰める緊張感。
視聴者は、まるで霧の中を歩くように、マサイアスや犯人の心の奥へと引き込まれていきます。
👉 この記事では、「警部マサイアス(ヒンタ—ランド)」シーズン2のエピソード1と2のあらすじ・感想を紹介します。犯人のネタバレは一切ありませんので、これから作品を観ようとしている方にも安心して読んでいただける内容です。
第1話「戻れない場所」あらすじ(犯人のネタバレ無し)
シーズン1の終わりは、マサイアスが被害者の母親と死体遺棄現場でキス、さらに肉体関係を持つという出来事がきっかけでその母親も犯人に殺されてしまうという衝撃の展開でした。さらには、マサイアスと2人きりのときに犯人が自殺を図ります。
シーズン2は、そんな事件から6週間後のウェールズの静寂な朝から始まります。
まだ心の傷が癒えぬマサイアスの家を、署長が訪ねてきます。

「戻ってこい。過去は過去だ。2週間の猶予をやる。」
意味ありげに映し出されるのは、マサイアスの家の壁に無造作に貼られた2人の少女(双子?)の写真。そして、マサイアスは署長の言葉に背中を押されるように、再び現場へ戻る決意をします。
久々の職場復帰直後、放火事件が発生。幼い少年が犠牲になるという痛ましい出来事でした。
衰退する農場と、長年の愛や確執に満ちた地域社会が映し出す真実は?
マサイアスがたどり着いた事件の真相の先には、さらなる悲劇が待っていました。
マサイアスの眼の前で、犯人が崖から飛び降りてしまったのです。
マサイアスは、自分がちょっと目を離したあいだに娘を死なせてしまったことを涙ながらに話し、自殺を止めようとしたのですが、奏功しませんでした。
場面は変わって・・・警察署。悪天候の中、ずぶ濡れで現れた女性がこう言います。

「マサイアス警部をお願いします。彼の妻よ。」
いよいよ、マサイアスの私生活の謎が明らかになりそうです。
第1話感想・マサイアスに苛立ちを感じたエピソード
なにか暗い事情を抱えて、ロンドンから逃げるようにアベリストウィスに赴任してきたというだけでも、筆者は「田舎を安易に逃げ場だと思っている都会人?」と少し違和感を感じていました。
シーズン1の最終話で被害者の母親と肉体関係を持つという展開には、捜査担当警部という立場でそれは懲戒ものでは?とさらに違和感を感じました。
シーズン2では、その上、メンタルを病み6週間も仕事を休んでいたという事実が判明。「自分が蒔いた種なのに、わがままだ」と言われても仕方ないのではないでしょうか。リース警部補が怒るのも仕方ありません。
第1話のラストも、傷つき、生きる希望をなくした犯人が、崖の上に立って今にも飛び降りるという状況で、マサイアスはなぜか自分の話を始めます。そこー!自分の話するところなのか?と筆者は疑問に思いました。もちろん「正解」はないのでしょうが、犯人と事前に心を通わせていたわけでもなく、いきなり崖上で自分語りはないんじゃないかな。
とにかく、シーズン2の第1話の感想は、「マサイアスにイライラした」でした。
第2話「家族の崩壊」あらすじ(犯人のネタバレ無し)
マサイアスのもとに、長く疎遠になっていた妻メグが現れ、呆れと怒りの表情で言います。

「写真を見ても娘は戻らないのよ。」
「ハンナと私を置き去りにし、あなたは罪の意識から逃げたの。」
ようやく、マサイアスが何から逃げて孤独な生活を始めたのか、その理由が明らかになってきました。第1話の最後にマサイアス自ら犯人に明かしたように、彼は娘を溺死させてしまっていました。ちょっと目を離した間の不幸な出来事でした。そして、その辛さに耐えかねて、もう1人の娘ハンナと妻を置き去りにしてロンドンを離れたのでした。
メグはまだ夫を愛しているものの、このままの状態には耐えられないと、娘ハンナを連れてカナダへ行くことを決めています。
止めてほしい様子のメグ。しかしマサイアスは、最後の最後まできちんと向き合うことができません。
寡黙で不器用というよりも、弱さを抱えた男としての姿が印象的です。
さらに、前回の事件の影響でマサイアスは独立調査委員会(IPCC)の調査を受けています。
2件連続で容疑者がマサイアスの眼の前で自殺しており、さらに「湿原の少女」の事件では犯人の首に絞められた痕があったからです。
ロンドン勤務時代にも、未成年への性的虐待で尋問中の教師に暴力を振るった過去があり、
「職業倫理よりも私情を優先する傾向がある」と指摘されてしまいました。
そんな中、退役した若い軍人のバス運転手が処刑スタイルで射殺される事件が発生します。
事件の背景には、怪我で働けなくなった父親の悲しい末路と、将来を断たれた若者の不運が交錯していました。
マサイアスたちはその悲劇の裏にある“静かな真実”へとたどり着いていきます。
第2話感想・マサイアスがようやく素直になって安堵
妻・メグとの約束の場所まで来ていながら、仕事を理由に会わない、電話に出ない、を相変わらず繰り返すマサイアス。
わざわざハンナを置いて会いに来たのに、結局タイミングは最後まで合わず。筆者はまたマサイアスに苛立ちを感じました。メグだって娘を失った母親です。しかもハンナのケアもしています。マサイアスが父親や夫としてではなく1人の少年のようにナイーブに振る舞っていては、家族としての一体感を保つのが難しくなるのは当然のこと。
とはいえ、メグを失い、署長の家を訪ねたとき、ようやくマサイアスは素直な自分を表すことができました。
自分の精神状態が悪く、刑事を辞めたい、と告げるのです。マサイアスが心の中にただただ鬱積していた暗い思いを言葉にして外に出せた瞬間のように感じました。これで、一歩前に進めることができるのではないか、と筆者は思いました。
まとめ:ウェールズの風景が語る“静かな絶望”
シーズン2前半は、マサイアスという「絶望」を抱えた男がかすかな「再生」の兆しを見せるエピソードでもあります。
灰色の空、荒涼とした大地、朽ちかけた家々――そのすべてが、彼の心を映す鏡のようです。
重く静かなテンポの中で、ウェールズの美しい自然と人間の悲しみが交錯する…これこそが『警部マサイアス(ヒンターランド)』の真髄なのです。

